立体構造に指南されたインシリコ創薬
立体構造に指南された創薬(structure-guided drug design / SGDD)は、構造分子薬理学分野が現在取り組んでいる中心的な手法です。他の研究グループのSGDDと特に異なる点は、NMRによるタンパク質-薬物相互作用を積極的に利用するという点です。具体的には、
- 創薬標的となるタンパク質の立体構造座標を用意する*
- in silico screeningなどの方法で、コンピュータを利用して、その立体構造情報を利用してポケットを解析し、そこに結合する候補化合物を予測する
- 実際に化合物を入手(購入または頒布、企業からの提供など)する
- 1に用いたタンパク質の15N標識試料と、NMR帰属データを用意する
- 3の化合物を4の試料に混合してNMRを測定し、予測結果を確認評価する
- (場合によっては結合部位・複合体構造をNMRで決定する)
- 5/6の情報をもとに、探索範囲を絞り込んで、更に有望な化合物を探す
- (場合によっては、有機合成化学者と共同して新規化合物を設計する)
この一連の作業により、医薬品シードとよばれる候補化合物が、割と短期間で選定できます。
こうして得られた化合物の今後の展開としては
- ケミカルバイオロジーに応用して、生物学の研究の試薬として使い、自分たちで新しいbiology基礎研究を切り拓くのに使う
- 化合物単独、あるいはfocused libraryとして特許を出願する
- 企業と共同研究をはかり、リード化合物として医薬品開発に進める
これまでに、この方法を廣明グループで扱ってきたタンパク質ドメインに適用して、いくつかの興味深い化合物を発見してきました。それらはまだ論文になっていないので、これから特に注力して、「仕上げ」をしていきます。
構造分子薬理学分野では、こうしたテーマに興味を持つ意欲ある大学院生を常時募集しています。コンピュータ(ケモインフォマティクス・バイオインフォマティクス)とタンパク質実験(wet)、そしてNMR実験の3つの領域それぞれに興味が持てる人が向いていると言えます。しかし、インシリコ創薬だけに特化して学びたい方も、大歓迎です。
また、この件に関する共同研究も積極的に受け入れています。