細胞接着は、組織や臓器の形成に必須であり、その異常はがんや他の多くの疾患の原因になっています。細胞接着を行う接着装置は、上皮細胞でよく発達しており、タイトジャンクション(TJ)とアドヘレンスジャンクション(AJ)と呼ばれています。AJではカドへリンとネクチンが、TJではクローディンがそれぞれ主要な接着分子であり、それに加えて、直接接着に関与する接着分子や、その分子の機能を制御する分子、接着分子によって制御されているシグナル分子など数多くのタンパク質を含んだ、巨大な複合体を形成しています。
それらの構造維持と制御には、細胞内の成分、いわゆる裏打ちタンパク質や足場タンパク質の協働が必須です。これらの因子の多くはPDZドメインを分子内に複数有する、「マルチPDZドメインタンパク質」です。
本プロジェクトでは、特に、がん、皮膚バリアおよび脳血漿関門で重要なそれぞれ上皮細胞、神経細胞の接着装置に注目して、その複合体および膜ドメインの構造を解明しつつ、その中から創薬標的になるタンパク質やタンパク質ドメインを探索します。具体的には
• カドヘリン、ネクチン、クローディン類の接着時と非接着時の構造機能解析
• カテニン、アファデイン、ZOタンパク質、LNX1などのPDZドメインタンパク質の各ドメインの微細構造、接着分子との複合体形成、これらの分子の複合体の構造機能解析
• 接着装置構成分子とこれらを輸送、除去する膜輸送に関与する分子との相互作用の構造的基盤
手法にはNMR、 X線結晶構造解析法、クライオ電子線断層法を用います。前述の例の中から実現可能性の高いものを優先して解析し、そこから細胞接着装置を外的に制御するための技術を開発することを目指しています。
この研究は、神戸大学医学研究科 細胞生物学分野(古瀬教授)・同 膜動態学分野(匂坂教授)、大阪大学蛋白質研究所(鈴木准教授)らと密接な連携のもと研究を進めています。