In-cell NMR 核磁気共鳴による非侵襲的計測

  核磁気共鳴法(NMR)の原理を利用した生体のイメージング法としてMRIがある。
これは、磁気共鳴に用いる電磁波(ラジオ波)ならびにそれを可能にする静磁場が、対象となる生体に対してほとんどダメージを与えずに、しかも深部まで浸透するという性質をもっているからこそ可能になったのである。
さて、ゲノムプロジェクトに代表される遺伝子情報解析と、分子生物学・生化学研究の進歩に伴い、蛋白質の機能や相互作用については膨大な情報が蓄積された。しかし、それらの殆どはin vitroの実験手法から得られた情報である。細胞内においては、数万種に及ぶ分子が非平衡状態で不均一に共存しているので、vitroにおける蛋白質の機能と一致しないという懸念がもたれる。細胞内の蛋白質の多くは、翻訳後修飾、あるいは細胞内局在の変化によって、機能と構造を動的に変化させている。従って、生きた細胞の中での「その場観察」を実現することが、蛋白質の担う生命現象の理解に必須である。

  そのために我々は、MRFM、NMRメタボロミクス、In-Cell-NMRといった新しい実験法や測定装置を系統的に開発している。

これまでに、蛍光顕微観察・細胞内ESR・磁気共鳴イメージングのいずれにも用いることのできる融合蛋白質タグ(lanthanide binding tag : LBT)と組換え蛋白質を哺乳動物細胞の細胞内に移行する活性をもつタグprotein transduction domain(PTD)を併せ持つ,dual-tagged vectorを開発した (Goda et al., 2007).それを利用して、細胞内での活性や局在に興味がもたれる蛋白質ドメインを複数種、細胞内に導入し、上記の方法が細胞生物学など他分野に応用可能かどうか検討しつつ、当分野において構造決定を行った蛋白質の細胞内活性測定にも応用する。

Lanthanideイオンが持ちうる細胞毒性については,これまでに、Tb3+について毒性の低い濃度領域で蛍光観察が可能であることを明らかにした。またHIV-Tatにかわる新規のprotein transduction domainについて,最近,ヒト由来の蛋白質であるIGFBP-3/IGFBP-5から新規のPTDの単離に成功し (Goda et al., 2008)、さらに新しい配列モチーフを探索中である。これらは、取り込ませる細胞の種類による蛋白質取り込み効率に違いがあるため,細胞内蛋白質導入に用いるためにはさらなる最適化が必要である。更に細胞内ESRや培養細胞のイメージング,MRFMに適した細胞標識法などの応用を視野に入れて条件検討を行う。

    これらの研究に関しては京都大グループ(白川昌宏教授)・横浜市立大グループ(古久保哲郎教授)・名古屋工業大学(田中俊樹教授)と緊密な連携をとりながら行っている。

 

 
戦略的研究開発事業(CREST)H.16-H.22 研究統括 白川昌宏教授(京都大学大学院工学研究科)
科学研究費補助金(萌芽研究)H.19-H.21 代表者 廣明秀一

 

お問合わせ先:(メールアドレスの[名古屋大学]をmbox.nagoya-u.ac.jpにしてください)
Email: hiroaki.hidekazu@f.名古屋大学

Updated: 2011/11/08 — 22:47