天然の核酸と非天然の核酸
天然に存在する核酸は、化学構造の違いから大きくDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)に分類する事ができます。わずかな構造の違いですがその役割は全く異なり、DNAは 生命の設計図として遺伝情報を保存し、RNAはDNAの情報を使える情報として制御します。
DNAもRNAも、それぞれ主にG(グアニン)、C(シトシン)、A(アデニン)、T/U(チミン/ウラシル)を核酸塩基とする4種類のヌクレオシドがリン酸ジエステル結合でつながった構造をしており、GとC、AとT/Uの水素結合を介した厳密な認識(塩基対)により、遺伝情報を厳密に伝え合う事ができます。一方、DNAとRNAの化学的な違いは、(1)DNAがチミンを塩基として使う一方で、RNAはウラシルを使う事、そして(2)DNA(デオキシリボ核酸)が2-デオキシリボースを糖部に使う一方で、RNA(リボ核酸)はリボースを使う事、のただ2つです。天然の核酸は、この少ない違いの組み合わせを巧みに利用する事で、極めて複雑な遺伝情報システムを単純なメカニズムで制御しています。
これに対して、核酸塩基・糖・リン酸ジエステル部に化学修飾を加えることで水素結合様式や高次構造さらには極性などの物性を変化させた核酸は、人工核酸と呼ばれます。天然の核酸に比べて高い高次構造形成能や分解酵素に対する耐性、光やpHなどに応じて性質を変化させる刺激応答性、光って見える蛍光性など、天然の核酸には無い人工的な機能を有した人工核酸は、生命科学の分野を中心にこれまで不可能だった多くの事を可能にしてきました。ゲノム配列決定法や遺伝子検出、配列選択的な遺伝子抑制は、典型的な例といえます。そして近年では、化合物ライブラリーの作成基盤材料として、また医薬品素材として、新たな利用価値が広がっています。